企業で業務上横領が発生している可能性がある場合、はやめに証拠を収集しましょう。証拠を集めることで該当従業員の業務上横領を追及可能です。
しかし、業務上横領は犯罪であるため、従業員も簡単に証拠が見つからないようにしているでしょう。そのため、証拠の種類や集め方を把握しておくことが大切です。
業務上横領の定義

業務上横領とは、従業員が自らの職務を利用して、会社や他者の財産を不正に取得する行為を指します。具体的には、会社の資金を不正に引き出したり、商品を横領したり、契約上の特典を私的に利用することが該当します。
このような行為は、信頼を裏切り、企業に対して多大な損害を与える可能性があり、刑法においても厳しく罰せられています。また、業務上横領が発生した場合、他の従業員の士気が低下し、企業全体の運営に影響を及ぼしかねません。
横領罪は、業務上で委託された財産を不正に持ち出す行為が要件となるため、通常の窃盗罪とは異なり、特定の職業的地位や責任を伴うことが特徴です。そのため、業務上横領に関しては、企業内部の権限を乱用するケースが多く見られます。
業務上横領の罰則
業務上横領に対する罰則は刑法で定められています。刑法第253条には、業務上横領は犯罪として明記されており、その罰則は非常に厳しいものです。(※1)
業務上横領を行った場合、懲役刑が科せられることが多く、最長で10年の懲役が求められる場合もあります。また、刑事告訴されれば、賠償責任が求められることもあります。
さらに、業務上横領が発覚すると、会社内部でも重大な懲戒処分が行われる可能性が高いです。懲戒解雇や減給、降格など、企業内での処分も厳しくなるため、従業員にとっては非常にリスクの高い行為となります。
(※1)e-Gov法令検索「刑法」 第二百五十三条(業務上横領)
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_38-At_253
単純横領との違い
業務上横領と似た行為として単純横領が挙げられます。単純横領は自分が占有する他人の物を横領した際に成り立つ犯罪です。例えば次のようなケースが単純横領に該当します。
- 友人から預かったお金を使ってしまった
- 友人から預かった洋風を勝手に売ってしまった
業務上横領と単純横領とでは罰則の重さも異なり、前者は最長10年の懲役なのに対して、後者は5年以下の懲役です。
業務横領のよくある6つのケースと証拠の種類
業務横領のよくあるケースとして以下が挙げられます。
- 経理担当者が横領していた
- 営業担当者が横領していた
- レジ担当者が売上金を横領していた
- 従業員が商品を持ち帰っている
- 従業員が商品を転売している
- 取引先からキックバックを受けている
それぞれのケースによって証拠の種類が異なります。
1. 経理担当者が横領していた
経理担当者が会社の資金を横領するケースは、業務横領の中でも比較的、見られるものです。経理担当者は会社の金銭管理を任されているため、日々の取引や送金履歴にアクセスできる立場にあります。そのため、不正に送金したり、帳簿を改ざんして会社の資金を横取りすることが可能です。
【証拠】不正な送金履歴を探す
経理担当者が横領を行った場合、重要な証拠は不正な送金履歴です。銀行口座の取引履歴を確認することで、不審な振込先や送金額を特定できます。特に、振込先が不正な個人名義の口座であったり、送金のタイミングが不自然であったりする場合、横領の証拠として有力となります。送金履歴を徹底的に調べ、記録を保存しておくことが重要です。
2. 営業担当者が横領していた

営業担当者が会社の利益を横取りしてしまうケースもあります。例えば、営業担当者が自分で契約書や領収書を改ざんし、販売した商品やサービスに関する利益を私的に得ることがあります。こうした不正行為は、取引先や顧客との信頼を損ねるだけでなく、企業の収益に直接的な影響を与える可能性があります。
【証拠】領収書の現物を探す
営業担当者が横領を行った場合、明確な証拠となるのが改ざんされた領収書です。領収書が不正に発行されたり、金額や取引内容が不自然であったりすることがあります。領収書の現物を収集し、改ざんの有無を確認することで、営業担当者の不正行為を立証することができます。また、営業システムや販売データも証拠となります。
3. レジ担当者が売上金を横領していた
小売業や飲食業においても業務上横領は発生し得ます。例えば、レジ担当者が売上金を横領するケースは少なくありません。レジ担当者は現金の取り扱いを行うため、不正に売上金を抜き取ることができる立場にあります。このような横領は、現金の管理が甘い場合や監視が不十分な場合に発生することが多いです。
【証拠】防犯カメラの映像を確認する
レジ担当者が売上金を横領している場合、有力な証拠は防犯カメラの映像です。防犯カメラを使用して、レジの動きや担当者の不審な行動を記録することができます。特に、レジ金の取り扱いに不審な動きがあれば、その映像を確認することで、売上金の横領を立証することが可能です。また、レジのシステムログや金銭管理の記録も証拠として重要です。
4. 従業員が商品を持ち帰っている
従業員が商品を私物として持ち帰る行為も業務横領に該当します。特に、小売業や倉庫業などでは、商品が簡単に持ち出されてしまう場合があります。このような不正行為は会社の損失を招くだけでなく、従業員間の信頼関係にも影響を及ぼします。
【証拠】防犯カメラの映像を確認する
商品を持ち帰っている従業員を発見するためには、売上金の横領同様、防犯カメラの映像を確認することが効果的です。従業員が商品を持ち出す様子がカメラに映っていれば、それが証拠となり、横領行為を立証することができます。また、商品が不足している場合、その在庫管理データを確認することも重要です。
5. 従業員が商品を転売している
従業員が横領した商品をインターネットなどを利用して転売する場合もあります。このような不正行為は、売上や在庫管理に大きな影響を与えるため、早期発見に努めましょう。
【証拠】ネットオークションやフリマサイトを確認する
商品が転売されている証拠を見つけるためには、ネットオークションやフリーマーケットのサイトを調査する方法が効果的です。従業員が出品している商品が特定できれば、それが不正に横領された商品であることを証明できます。また、商品の出品履歴や取引内容の確認も転売の証拠になり得るでしょう。
6. 取引先からキックバックを受けている
取引先からキックバックを受け取る行為は、業務上横領のひとつです。このような行為は企業の経済活動に不正な影響を与え、業務に重大な損害をもたらす可能性があります。取引先との不正な契約があった場合、その証拠をしっかりと収集することが求められます。
【証拠】取引先とのやり取りを確認する
取引先との不正なやり取りを確認するためには、契約書やメールのやり取りを調査することが重要です。特に、キックバックに関するやり取りが記録されている文書や電子メールは証拠として有効です。取引先との不正な金銭のやり取りを立証するためには、契約書の内容や取引の詳細を調査することが欠かせません。
業務上横領で証拠が重要になる理由
業務上横領において証拠が重要になる理由は大きく次のとおりです。
- 民事訴訟で勝てない
- 刑事告訴ができない
- 懲戒解雇が認められない
民事訴訟で勝てない

自社の金品が横領されたのであれば、犯人に対して民事訴訟で被害額を請求可能です。
民事訴訟は裁判官が証拠をもとに認定します。そのため、証拠がなければ民事訴訟を起こしたとしても、賠償は認められないでしょう。
刑事告訴ができない
業務上横領は刑事事件としても扱われます。しかし、証拠がなければ警察に刑事告訴を受理してもらえない可能性があります。
事件の証拠は警察が捜索するものの、多くの人員をすべての事件には割けないため、一定の証拠がない告訴は受理しない傾向にあります。
懲戒解雇が認められない
証拠がなければ民事訴訟、刑事告訴が認められないだけでなく、自社の懲戒解雇も認められないでしょう。
従業員が業務上横領をしているのであれば、本人への処分は懲戒解雇に相当します。しかし、証拠がなければ懲戒解雇の処分を下したとしても、従業員から訴訟を起こされ敗訴してしまうでしょう。その際は、被害を受けた会社が従業員に裁判までの未払い賃金を支払う必要があります。
本人からの事情聴取もポイント
業務上横領が発覚した場合、該当する従業員から事情聴取をしましょう。従業員本人から事情をヒアリングする際は次のようなポイントを押さえておくのが大切です。
- 事情聴取の方法
- 注意点
事情聴取の方法

本人から事情聴取する際は、最初に相手の意見を聞きましょう。その後、証拠に基づいて相手の意見の矛盾点を指摘していきます。最初に証拠を提示して横領を指摘すると、証拠に矛盾しない反論をされかねません。
なお、事情聴取の際は横領の事実を認めさせるだけでなく、いつ、どこで、どのように横領したかを認めさせることが大切です。
注意点
業務上横領の事情聴取を自社で実施する場合、自白を強要してはいけません。自白を脅迫してしまうと冤罪を生んでしまう可能性があります。
冤罪を生まないために、事情聴取をする際は録音を実施し、両者の発言を記録しておきましょう。
横領した従業員の処分方法
横領した従業員を処分する際は次のような方法で進めていきましょう。
- 賠償の約束を取り交わす
- 懲戒処分について検討する
賠償の約束を取り交わす
横領した従業員を処分する際は、横領した商品、金銭をいつまでに賠償できるのか、約束を取り交わしましょう。取り交わした約束は文書化することが大切です。
文書化しないでいると、言った言わないの水掛け論になりかねません。
懲戒処分について検討する

横領した従業員にどのような懲戒処分を下すのか検討しましょう。一般的に、業務上横領をした従業員に対しては懲戒解雇が下されます。
しかし、証拠が十分でなかった場合や横領した額が少なかった場合、減給や降格などの処分を下すこともあります。横領した額や状況などを考慮したうえでどのような懲戒処分を下すのか判断しましょう。
業務上横領の証拠を集める2つの方法
業務上横領の証拠を集める方法は主に次の2つです。
- フォレンジック調査に対応している業者に依頼する
- 企業信用調査を行う探偵に依頼する
フォレンジック調査に対応している業者に依頼する
フォレンジック調査とは、パソコンやスマートフォン、サーバーなどの電子データを専門的な手法で解析し、削除されたデータの復元や改ざん履歴の特定などを行う調査のことです。
経理担当者がデータを消去してしまった場合や、取引先とのメールのやり取りが削除されている場合などには、フォレンジックの技術が大いに役立ちます。また、誰がどの日時にどのデータを操作したのかというログ情報の解析もフォレンジックの領域です。これらの技術によって、従業員の不正を裏付ける動かぬ証拠を入手できる可能性があります。
企業信用調査を行う探偵に依頼する

探偵によっては、企業信用調査や従業員の不正調査などを専門的に扱っているところもあります。例えば従業員が商品を横領して転売している疑いがある場合に、ネット上のオークションやフリマサイトを調べたり、従業員の行動を尾行して証拠写真を撮影するなどの実地調査を行ってくれることがあります。また、取引先との不正なやり取り(キックバック)を裏付けるために、取引先の状況や企業実態を調査するケースもあります。

業務上横領は証拠を集めて適切な処分を下そう
業務上横領とは従業員が自らの職務を利用して、会社や他者の財産を不正に取得する行為を指します。自社の従業員が業務上横領をしていた場合、民事訴訟や刑事告訴、懲戒解雇が可能です。しかし、これらの手続きを実現するためには横領の証拠が必要です。
横領の証拠収集は自力で実施するよりも探偵に依頼するのがおすすめです。アイヴィ・サービスでは業務上横領の証拠収集に対応しています。自社の従業員に疑わしい行動がある場合、お金の不自然な流れがある場合などは、ぜひご相談ください。